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三角格子上のスピンの新しい無秩序量子状態の発見

A01: 中辻 知

概  要
 フラストレーションを感じて悩むのは、何も人に限ったことではない。磁石を構成する電子の持つ スピンと呼ばれる微小な磁石も、フラストレーションを感じることがある。 今回、京都大学理学研究科を代表とする研究チームは、スピンに強いフラストレーションを与えることで、 本来なら現れるべき磁気秩序が起こらない状況を作り、これまでの磁性体に見られなかった全く新しい タイプの無秩序な状態を実現させることに成功した。この状態は量子力学を用いて始めて理解できる 「量子スピン状態」の一種で、これまで磁性体で知られてきた磁性現象、即ち、強磁性・反強磁性と言った 規則的磁気秩序、スピンがガラスのように不規則に凍結したスピングラスのいずれとも異なる。 この発見は、磁性分野に新たな局面を開くと同時に、伝導電子をドープした量子スピン系で現れる 高温超伝導の理解や、磁気秩序・無秩序転移を利用した磁気スイッチデバイスへの応用等へもつながるものと 期待される。
 結晶格子上のスピンは、熱運動の小さな低温では隣り合わせの関係から最も安定な規則的配列をとる。 しかし、三角格子だけは例外で、その上に並べられたスピンは、本来の磁気秩序の温度よりも低い温度まで、 秩序化できないことが知られている。実は30年以上も前に、この三角格子上でのフラストレーションを 使えば、磁石が通常示す磁気秩序が完全に抑えられ、スピンが液体のように振舞う無秩序な量子状態を実現できる のではないか、という理論的な提案がアメリカのノーベル賞物理学者アンダーソンによりなされていた。 今回、中辻知(京都大学理学研究科 講師)、南部雄亮(京都大学理学研究科 大学院生)、 前野悦輝(京都大学理学研究科、京都大学国際融合創造センター 教授)、 常次宏一(京都大学基礎物理学研究所 教授)、 コリン・ブロホルム(米・ジョンズ・ホプキンス大学 教授)らは、ニッケル・ガリウム・硫黄からなる 磁性体のニッケル(Ni)の作る三角格子で、スピンの無秩序な量子状態を初めて実験的に実現・確証した。 Niのスピンは、秩序を完全に抑えられたことで、量子液体として知られるヘリウムに対応するような スピンの量子液体を形成している可能性が高い。今後、新たな量子現象として、この新しいタイプの 磁性現象の解明が期待される。本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金、 文部科学省21世紀COE“物理学の多様性と普遍性の探求拠点”の支援を受け実施された。 本研究成果は、Science誌9月9日号に掲載された。

*詳細は、京都大学ニュースリリース「三角格子上のスピンの新しい無秩序量子状態の発見」を参照
URL: http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/documents/050909.htm
 
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